富田日記
「富田日記」は上野国(現在の群馬県)前橋藩士富田政清の娘で鎧(のちに神勅により春と改める)に長壁神社の神(木花開屋姫命)が姿を現し、それ以後長壁大神をはじめさまざまな神と交流する様子を春が話し、それを父の政清が日記として記したものです。
ここに載せるのはその日記を同じ前橋藩士の村上致中が明治4年12月30日までを写したもので、そのためか最後の方は少々尻つぼみになっています。
実際の富田日記はその後どこまで記されていたかは謎です。
この長壁神社は元々姫路城に祀られていた長壁神社を、当時藩主だった松平朝矩(本文中の霊鷲院は戒名)が前橋藩に転封する際に勧請した神社で、現在は前橋東照宮に合祀されていますが、元々神社のあった場所にも祠があります。
兵庫の長壁神社の祭神は刑部親王なのに対し、前橋市の長壁神社の祭神は木之花咲耶姫神と違いがあります。この話の中に当時は祭神が何神かわからなかったとあるので、おそらく冨田日記の話が元で祭神を木之花咲耶姫神としたのかもしれません。
姫路から前橋に転封する際や前橋から川越に転封される際に長壁大神が松平朝矩の夢枕に現れる話は有名ですが、この富田日記の話はあまり有名ではないようなので、この機会に読んでみてください。
この話に出てくる皆川一郎平は異人に連れられて行方不明になり、当時騒ぎになった話があります。この顛末は「天狗にさらわれた武士(著:岩淵忍)」という自費出版本にまとめられていますが、入手は困難と思われます。
群馬県立図書館と前橋市立図書館に所蔵されているようなので興味のある方は閲覧してみてください。
ここに取り上げる富田日記は高崎市立図書館所蔵の「長壁明神春女物語」を図書館の許可を得て活字化して公開しています。
句読点や改行、「」等の括弧などはこちらで編集したものです。
一部日付しかない行がありますが、原文ママです。
出版物としては神道天行居の「幽冥界研究資料」(第四版以降)があります。
通常は古本で手に入れる形になるかと思います。
また兵庫県立歴史博物館の学芸員がこの富田日記の件でコラムをだしています。あくまで現実的な見方ではありますが、参考までに。
学芸員コラム れきはく講座 第16回 前橋の長壁姫